10年くらい前の話。
当時、俺32、嫁28。結婚2年めで子供ナシ。
経済的に逼迫していて子供どころじゃなかった。
嫁ちゃんは、俺が勤めていた会社に中途で入って事務やってた。
けっこう頑張って口説いてものにしたんだ。
結婚して会社辞めて、嫁実家の近くに引っ越した。
仕事は、以前と同じ業種に就くことができたので、すぐに馴染んだ。
嫁を貸し出すことになったのは、
俺や嫁がそういうプレイを望んだわけじゃない。原因は借金。
その借金は俺が作ったものでも彼女がこさえたものでもなく、
彼女の実家のゴニョゴニョなので、
俺としては不本意極まりない話だった。
嫁は一人娘で、家庭崩壊のピンチにテンパッてた。
何とか守ってやりたかったんだけど、
親戚関係の金策も尽きた、というか全く頼りにならない。
そこで仕方なく、前の会社の社長に相談したのよ。
理由を説明して、幾らでもいいから貸して欲しいって。
社長は当時年齢40くらいの小金持ち。
家業で会社やってて、俺が入社した時は
まだ社長じゃなくて現場でバリバリ。
少し年の離れた兄貴分みたいなもんで、
俺が気安く相談できる唯一の他人だった。
新人ソープ嬢をよだれダラダラの前後不覚にした武勇伝
の持ち主で、俺も一緒に風俗遊びしたりね。
俺たちが転居した後も連絡取り合っていて、
一番信頼してた人なのね。
その信頼している人の口から、
「金は全額何とかしてやる。その代わりお前の嫁を借りたい」
という話が出た。
もちろん俺は怒ったさ。冗談じゃない。
後から知ったんだが、嫁ちゃん、
結婚前の一時期、社長に口説かれかけてた。
社長が、独身嫁を愛人だかセフレだかにしようと
たくらんだことがあったわけ。
もっとも嫁ちゃんにその気はなく、
「奥さんに言いつけますよ、もう」みたいに軽くあしらったらしい。
ソースが嫁の話のみなので、社長の言い分を聞いてみないと
どういう関係だったのかわからんけどね。
社長の嫁に対する執着は、それだけじゃ説明できない気もする。
この時点での俺はそんなこと知らないから、
わらにすがる気持ちで社長に相談したさ。
さらに話がややこしいんだが、
俺より先に、嫁が社長に金の相談してたみたいなのね。
この時の嫁の心境はよくわからん。
たとえ昔の話でも、自分に好意を寄せていた男を頼るってのは。
二人の間に、アプローチした、された以上の、
俺の知らない何かがあったんじゃないか
という疑いが、どもう頭を離れない。
これは俺の想像なのだが、たぶん嫁と社長がやり取りする中で、
「抱かせてくれたら金を貸す」
みたいな話が先にあったんじゃないかと思う。
レンタル話を聞いた時の嫁は、思ったより冷静というか、
違和感があった。
嫁ちゃん、「旦那が承知するなら」
みたいなことを言ったのかもしれん。
ま、この手のことって、一度疑い始めるとキリがないんだけどさ。
ある日、嫁が「離婚」を口に出した。
「S(俺)を巻き込んでごめんね」ってえぐえぐ泣くんだよ。
離婚して、お金のことは自分が背負うから、えぐえぐえぐえぐ。
ああ、社長に抱かれる覚悟したんだって直感で思ったよ。
「そのつもりか?」って聞いたら、
「ごめんね」ってまた大泣き。
泣いている嫁を見て、人の弱みにつけ込む社長に殺意覚えたね。
もう嫁の覚悟は止められないというところまで来てしまった。
そうなると、俺が目をつむるか、離婚するしかないわけ。
離婚なんて選択は俺にはない。
嫁が誰と何しようが平気でいられる、
度量の広い亭主を演じようと思った。
俺から社長に連絡して、「嫁をよろしくお願いします」と頭を下げた。
屈辱だった。人生最大の。
この時の社長との会話はあんまり書きたくない。
嫁を貸し出すにあたっては、互いに色々と条件をつけた。
(次回へ続く)