前編は以下のとおり
スキー・スノーボード社員旅行
スキー・スノーボード社員旅行 続編
スキー・スノーボード社員旅行 続2編
スキー・スノーボード社員旅行 続3編
スキー・スノーボード社員旅行 続4編
スキー・スノーボード社員旅行 続5編

社員旅行からしばらく経った頃、携帯にメールが届いた。「よかったら今週末飲みに行こうよ。子供実家に預けられることになったの。J也も誘ってみたらOKだって」
それは、学生の頃付き合っていた、元彼女のM和からだった。
「今週末ね、もちろんOKだよ」とすぐにメールの返信をした。
M和とJ也は専門学校のクラスメートで、同じ電車に乗って通学していたこともあり、いわゆる仲良し3人組だった。
M和は背が低く小柄で、いつもショートカットの髪は一度もロングにしたことがないと言う。
クリっとした丸い目にアヒル唇は、それといって美人ではなく際立って目立たなかったが、それでも少人数ながらも地味に人気があった。
付き合っていながらも、とりわけ彼女という意識は低く、友達の領域を少しだけ越した関係といったところだろうか。きっとM和も同じような考えだったと思う。
そんなM和も今となっては、中学生と小学生の2人の子供がいる立派なお母さんだ。
M和がまだ使い慣れていないスマホで探したという、無国籍料理店で食事をしながら飲むことになった。
少々早く到着した私は、「予約した……」と店員に告げると、ハキハキとした口調で席に案内され、するとほぼ同時に「今来たところなんだ、ちょうどよかったねー」と小さく手を振りながらM和が向かってきた。
新品のスマホをテーブルに置きながら淡々とM和は言った。
「そうそう、さっきメール来たけどJ也ちょっと遅れるって。お腹空いたし、先に始めちゃおうよ」
「おっ!これが新しいスマホか、画面すっげーきれいだね。うんそうだ、待っててもいつ来るか分かんないから頼んじゃおう」
メニューを広げ、あれこれ飲み物や料理を注文すると、J也からあと30分で着くとメールが届いた。
2人はどうってことのない話をしながらも、こうやってM和の顔を見ながら向き合って話すと、付き合っていたあの頃をどうしても思い出してしまう。
なぜなら、M和は一風変わった特異な趣味を持っているからだ。
付き合い始めたのは専門学校の卒業が近づく冬の終わりの頃で、ちょっとしたきっかけだった。
クラスの飲み会で2人とも大酔っ払いをして終電を逃し、他のみんなともはぐれてしまい、酒の勢いでラブホテルに泊まったことである。
大酔っ払いした割には部屋でポカリスエットをこぼしたことや、初めてのM和とのセックス、つけていた下着の色まで今でもはっきりと覚えている。
ちなみにダークブルーの上下お揃いだ。彼女にこのことを何度か話したことがあるが、「なに言ってんのよ、そんなの覚えているわけないでしょう」と毎回鼻で笑われる。
それにしても自分でもはっきりと覚えているのが不思議でならない。
学生の頃は、もっぱらホテルの休憩で時間を気にしながらセックスをしたが、社会人になると泊まりが増え、M和が親に買ってもらった車を使い行動範囲も広がっていった。
そんなある日のこと、M和のいとこが営む小料理屋に招待された。
最寄り駅の反対側は言わずと知れたホテル街で、夜が深まると多くのカップルが行き交うところだ。
私達はこのどこかのホテルに泊まる予定なので、終電の心配はしなくてよい。
「よく来たねー、この前話してくれたM和ちゃんの彼氏かな?まあまあ座って座って」
店に入ると、いかにも優しそうな顔をした中年男性のいとこが私達を出迎え、カウンター席に座らせてくれた。
「どうぞ好きなの食べなさい。なんでもどうぞ。おじさんがご馳走するから」
「えっ!それはいけませんよ !」
と、とっさに言いながらも、横目でネタケースを見てしまう。お刺身から茶碗蒸しまで、これ以上なくたらふくいただいた。そしてたらふく飲んだ。
「彼氏強いじゃないか」とビール、焼酎、日本酒、M和も一緒になって次から次へと飲まされ、2人仲良くかなりのハイテンション。
「本当にいろいろとご馳走になりました。どうもありがとうございます」
いとこに深々と頭を下げながらお礼を言い、店を出た。(次回へ続く)
(投稿者 カベルネ・大助)