小学校から一緒だった結衣(新垣結衣に似てるからそう呼ぶことにする)って女がいた。
小学校の頃は、「おまえら、両思いだろ!」なんてひやかされたりもしたが、実際、結衣が俺のことをどう思っていたかは一度も聞いたことがないし、
俺自身も、はっきりとした恋愛感情を持っていたわけでもなかった。
中学に入ると、結衣はガンガン美人になり、しかも部活(剣道)で全国大会に出たりして、帰宅部で地味な俺とは対照的に、学校でもかなり目立つ、アイドル的存在となった。
結衣のまわりにはいつも人が集まり、逆にイケてないグループの俺は、結衣と話す機会も激減していった。
中3の夏休み直前、同じく小学校から仲の良かったA子から、突然旅行に誘われた。
「伊豆に、結衣の親戚の別荘があって、一泊で遊びに行くんだけど、一緒に行かない?」
「え?俺は別にいいけど」
「オッケー。じゃあ、あと、B介も誘ってみるね」
俺、結衣、A子、B介は、4人とも小学校で同じクラスで仲が良く、中学に入った今でも、結衣とA子の親友関係は続いているようだった。
「結衣はOKなの?」
「うん。私が、『高校行ったらバラバラになるし、4人で思い出作らない?』って言ったら、『いいよ』って。もちろん親には内緒みたいだけど」
そんな感じで、8月の最後の週、4人で伊豆に行くことになった。旅行当日の朝、集合場所の駅に到着すると、結衣が一人で待っていた。
「あれ?A子は?」
「なんか、午前中に急な用事が入ったから、午後から来るって連絡があった」
「じゃ、あとはB介待ちか」
「うん」
結衣とは長い付き合いだが、プライベートで会うことはほとんどなかったし、私服姿を見るのも小学校以来だったので、大人っぽい格好にビビった。
しかも、最近は全然話してなかったので、妙な緊張感があった。たいした会話もないまま、集合時間を5分ほど過ぎたとき、メールが来た。
『寝過ごした。後から追いかけるから、先に行ってて B介』
「マジかよ…」
「どうしたの?」「B介も遅れるって」
「えーーっ?」
というわけで、俺は結衣と二人で電車に乗り、伊豆へ向かうことになった。
電車に座ると、やっと緊張もとけて、昔のように話せるようになった。
別荘に着いてみると、目の前には海が広がり、海岸までは歩いて30秒という、マジで素晴らしい場所だった。
「すげえなあ」「でしょ」
「とりあえず、海行くか」「うん。着替えてくるね」
そう言って結衣は別の部屋に行ったので、俺はリビングで水着に着替えた。
しばらくして、着替え終わった結衣が、ちょっと恥ずかしそうに部屋から出てきた。
「お待たせ」
一目見て、俺は思わず唾を飲み込んだ。
結衣の水着は、白い紐ビキニだった。ちょっと布の面積が少なすぎると思った。
水泳の授業でスクール水着は見たことがあったが、ビキニ姿を見るなんてもちろん初めてだ。っていうかスタイル良すぎ。完全に大人のカラダ。
胸はマジでそこらのグラビアアイドルくらいはある。それに、ウエストがくびれてやがる。すげースタイル。中3の女ってこんなに大人なのかよ。
一気に頭と下半身に血が流れる。しかし、見とれてボーっとしてる俺に、結衣はさらに追い討ちをかけるようなことを言った。
「あのさ…お願いがあるんだけど」
「お願いって何?」
「背中に…日焼け止め…塗ってくれる?」「え!?」
「ダメ?」「い、いいけど」
こんな状況、ドラマかAVでしか有り得ないと思っていたので、動揺を抑えるのに必死だった。ただ、結衣も、相当勇気を振り絞って言っているようにも見えた。
「じゃあ、お願いしていいかな」
結衣は、俺の目の前に、背中を向けて正座した。俺は、結衣の背中に、日焼け止めのクリームを塗った。初めて触る女の肌。
エロいことを考える余裕すらないほど、緊張でガチガチになりながら、なんとか塗り終えた。
その後は、二人で海に行き、思う存分遊んだ。女とデートすらしたことがない俺にとっては、言葉では言い表せないくらい楽しかった。
結衣は、いつも学校で見せる落ち着いたイメージとは全然違って、子供みたいに(子供だけど)はしゃいでいた。
午後になって、A子とB介から、『そろそろそっちに到着する』というメールが来た。なぜかあいつら二人で待ち合わせて来るらしい。
とりあえず、俺と結衣は別荘に戻った。
別荘に戻るとすぐに、結衣は「シャワー浴びよぉーっと」といって、水着のまま、さっさとバスルームへ入ってしまった。
俺もシャワーを浴びたかったので、水着のまま待つことにした。
かといって、この状態ではソファに座るわけにも行かないし、やることもないので、部屋の中をうろうろしていた。
バスルームからは、シャワーの音が聞こえてきた。
なんかムラムラとして、良からぬ想像をしそうになったのだが、それを見透かしたかのように、バスルームのほうから結衣の声が響いた。
「ねえ、一緒にシャワー浴びよっか」
俺は耳を疑った。
「…え!?」「ベタベタして気持ち悪いでしょー?」
「ま、まあ、そうだけど」「あ、水着着たままでだよ、もちろん!」
「わ、わかってるよ」
バスルームの扉越しにそんな会話をした。
「じゃあ、入るぞ」「いいよー」
頭の中には、全裸でシャワーを浴びている結衣の姿が浮かんできてしまい、ドキドキしながらそっと扉を開けた。
…が、結衣は、当然ながら、水着をしっかりと着たままで、シャワーを出しながら、お湯になるのを待っていた。
「海きれいだったねー」「そうだね」
最初は、そんな他愛のない話をしながら、お互いにシャワーをかけたりしていた。
「こんなことしてたら彼氏に怒られるんじゃね?」「彼氏なんかいたことないの知ってるでしょ」
「でも結衣モテるじゃん」「そう?」
「誰でも選び放題だと思うよ」「…」
すると、そこで会話が途切れ、突然の沈黙が訪れた。なんか気まずいなーと思って結衣を見ると、なぜか、何も言わずにこっちを見つめていた。
「何?」と聞いてみたが、結衣は無言まま、ただ、じっとこっちを見てる。
俺と結衣の間には、シャワーが勢いよく降り注いでいて、その音だけが響いていた。気まずい。なんだこの状況は。経験したことがないぞ。
というか、そもそも、女子と二人っきりになること自体、初めてだ。
『どうしたら良い?』と自問してみるものの、答えは出てくるはずもない。ただ、じっと俺のことを見つめている結衣が、なぜか無性にいとおしく思った。
だから、本能のままに、結衣の肩に手をかけて、抱き寄せてみた。なんの抵抗もなく、結衣は俺の腕の中におさまった。
無抵抗なまま俺に抱かれている結衣。俺はまだこの状況が理解できずにいた。夢か?いや、夢だってこんなに都合良くはいかない。
俺はただ腕の中の結衣の感触を確かめていた。(次回へ続く)