幼なじみとの思い出を懐かしいから書いてみる。
読みづらいところがたくさんあると思うけど許してね。
彼女は俺が幼稚園の頃から通っていた柔道道場の先生の娘だった。
彼女とは幼稚園、小学校は違っていたが同じ年でいつから好きになったのかはわからないが、気づいた時には彼女のことが好きで好きでどうしようもなかった。
柔道というと体の大きな子をイメージするかもしれないけど、俺も細かったが、彼女はさらに小さく細くて笑顔がほんと可愛かった。
だが、柔道は無茶苦茶強かった。力はそれ程でもないんだけどスピードとタイミングの取り方がずば抜けていた。俺はこの道場では彼女に次いで強かったが彼女にだけはどうしても勝てなかった。
彼女のことが好きなことは何故か恥ずかしかったので誰にも気付かれないようにしていた。彼女の父である先生はとても厳しいところがあったが、基本的には優しくて面白かった。
火、木、日と週3回の練習には彼女に会える楽しみもあって自分の理由で休んだことはなく、ほぼ毎回練習に通った。柔道も大好きになっていった。
日曜日の練習の後は彼女を含めたみんなでおにごっこしたり、たまには先生の家の庭でバーベキューしたりして遊んだ。
夏には合宿と称して民宿に泊まって海水浴したりもした。
そんな楽しかった日々ももう少しで終わりそうだった。
卒業が近づいていた。彼女とは中学校も違う。
もう会えなくなるのかと思うと悲しかった。
道場での最後の練習は2月の最終日曜日で毎年恒例の道場の門下生による紅白戦(紅白に分かれての試合)だった。
1番強い彼女は赤組の大将、2番目の俺は白組の大将になった。
ものすごく憂鬱だった。
大好きな女の子に大好きな柔道で負けるのは耐えられなかった。
自分でもわかりすぎるくらい彼女とは実力が違っていた。
鬱な気持で試合を待つ間なにげなくこの道場の畳を見ていて俺はふと考えた。
俺は今までほとんど休まず一生懸命頑張ったじゃないか。最後なんだから負けたっていいじゃないか。とにかく最強の彼女に俺の全力を見せてやろう。
この試合は俺にとっての7年間の集大成だった。俄然やる気になってきた。
会場係りに俺の名を呼ばれ、試合場に立った。
彼女と向かい合わせになり礼をする。彼女の様子が何かおかしい。
俺と一切目を合わせない。
「はじめ!」 の声がかかり俺は一声気合を入れて彼女に近づいた。
左の袖を狙うといつもは掴めないのに簡単に引き手が取れた。右の襟も簡単に取れてしまった瞬間、俺の必殺の内股を仕掛けた。
彼女から拍子抜けするほど簡単に一本勝ちした。初めてだった。
下になった息がかかるくらい近くの彼女と目が合った。彼女は少し赤くなってすぐに目を逸らした。彼女から甘くいい匂いがした。
でも俺はすごいショックを受けていた。彼女が手を抜いたのが分かったから…
恒例の試合の後は先生の家の広い和室で納会が行われた。
納会は保護者たちが持ち寄ったたくさんの食べ物とジュース、大人たちは酒を飲んでお別れ会のような形になった。
俺は一人落ち込んでいた。でも多分誰も気付かない。
俺は昔からポーカーフェイスだった。
ジュースを飲んでいた俺に彼女が近づいてきて耳打ちした。
「しゅーちゃん。ちょっと来て」俺は渋々付いていった。
彼女は誰も居ない敷地内の道場に入っていった。
俺に向き直ると
彼女「しゅーちゃん……私…あの…」
俺「なあ、ゆう。…何で手を抜いたの?」
彼女「えっ???」
俺「最後なのに…」 言ったとたん俺の目から涙がぽろぽろ零れ落ちた。
彼女「えっ?…しゅーちゃん…何で?…グスッ」
俺の涙を初めて見て彼女は混乱し、そして泣いた。
彼女「わー……ごめんなさいっ……ごめんなさいっ」
俺「もう、いいよ。……戻ろう」 と言って俺は涙を拭いた。
しばらく彼女を待っていると彼女も泣き止んだ。
俺「俺が泣いたのは内緒な」
彼女「…うん」
俺たちは何事もなかったかのように納会に戻った。
そして俺は中学生になり当然柔道部に入った。
今度こそ彼女に勝つために無茶苦茶練習に打ち込んだ。
試合の時は彼女を探して試合会場をうろうろしたが彼女を見つけることは出来なかった。
結局、柔道に明け暮れた中学時代彼女に会うことはなかった。
そして俺は地元で一番と言われている柔道の強豪高に入学した。
彼女も絶対この高校に入ると思っていた。
入学式の日。俺はキョロキョロ彼女を探した。
いた!!俺は嬉しくてドキドキした。彼女も何故かキョロキョロしてて俺と目が合うとあの懐かしい満面の可愛い笑顔になり、手を振りながら走ってきた。
彼女はあの頃の何倍も女の子らしくなり可愛く成長していた。
「しゅーちゃん!久しぶり!元気そうだねw!」
彼女は本当に嬉しそうに話した。
俺もさらに嬉しくなって
「久しぶり!また一緒に柔道やれるなーw」と言った。
彼女「えっ。柔道なんてとっくにやめたよ」
俺「えー!本当に?…ありえねー」
彼女「本当だよー。私、星好きだから天文部に入るんだーw」
俺「ふーん。そんな部活あるんだ。俺も入れるのかな?掛け持ちとかできるのかな?」
彼女は楽しそうに笑って
「なんかしゅーちゃんには似合わないけどw 入部したら聞いてみるね。
……もしかして私と一緒がいいのw?」
俺少し赤くなってしまって 「違うよ。俺も星が好きなんだよ」と言った。
「ふーん。ま、いいか。…しゅーちゃん、柔道頑張ってね。応援してる。」
「おー。○○ほど柔道センスないけどな。○○も天文頑張れよ」
俺は昔みたいに「ゆう」と呼べず彼女の苗字で呼んだ。
「うん。わかった。○○君」と彼女は少しだけ寂しそうに俺を苗字で呼んだ。
そして「じゃあ」と言って元いた場所へもどっていった。
やっと念願かなって彼女と同じ学校へ通えるなんて夢のようだった。
しかし柔道部はそんな掛け持ちが許されるほど甘くはなかった。練習は過酷を極め、6月には耳がつぶれて痛かったが痛みが取れたころには耳が少し餃子っぽくなってしまった。
彼女のことを考えるゆとりもないまま日々の練習で追い込まれたが、お陰で俺は本当に強くなった。
レベル的には2年生の頃には試合成績を書くと特定されると困るから書かないが、中量級の個人で県内ではかなり有名な選手の一人になっていた。
たまに彼女は試合も見に来てくれた。先生であるお父さんと一緒だったが…
初めて見に来てくれた時は俺は先生のところにすぐに走って行って
「先生!久しぶりです。見に来てくれてありがとうございます!」と挨拶した。
「いやー俺も嬉しいよ。お前本当にいい選手になったなー。将来はうちの師範やれ」と言ってくれた。
隣の彼女は何故か恥ずかしそうにしていて、「○○君私お弁当作ってきたの、お昼になったら一緒に食べよーw」と言った。(次回へ続く)