何年も前、すごい好きだった大学の先輩の話を書きます。
いつもサバサバしていて、男前なキャラの先輩だった。
同姓異性、年上年下関わらず友人が多く、ノリの良い性格なんだけど、かといって中心人物になりたがるような出しゃばりでもなかった。
ぶっきらぼうでガサツな感じすらするのに、いつも飲み会では最後は店員さんと一緒に片付けしたりとかそんな人。見た目はまんま宇多田ヒカル。髪はセミロング。
喋り方とか声も似てるから、本当にそっくりさんとかでTV出れるレベルだと思う。歌は下手だけど。
でもそれを自分からネタにして笑いにしたりとか、そういう器量が大きいところも好きだった。
体型も似てて、あんまり身体の線が出やすい服装って見たことないんだけど、全体的にぽちゃ気味で、胸も大きいのは明らかだった。
そういえば先輩がスカートを履いてるのを見たことがない。
いつもジーンズにTシャツの、ラフなカジュアルって感じ。
そんなヒカル先輩とは、大学入学時から知り合いだった。入学直後のキャンパスのサークルの勧誘で、声をかけてきたのがヒカル先輩だった。
サークルなんて別にどこでも良かったし、一目惚れしたわけでもなかったけど、第一印象からこんな人なら誰とでもすぐ仲良くなれるんだろうな、と思わせるような人だった。
内向的な自分とは正反対で、羨ましくもあり、正直妬ましくもあった。
ちなみに軽音楽部。もちろん先輩はVoじゃない。キーボード。
たまにネタというか余興でやることもある。見た目や声、喋り方まで宇多田ヒカルにそっくりだから、すごい下手で当然ウケるんだけど、でも誰も馬鹿にして笑うって感じじゃなくて、やっぱり先輩は皆に愛されてるな~って実感できるような雰囲気だった。
好きになったきっかけや時期は覚えていない。わりと早かったと思う。2~3ヶ月くらい。いつの間にか、自然に大好きになっていた。人間的にも、女性としても。
その頃には結構喋れるくらい仲良くなってて、といっても先輩は誰とでも仲良いんだけど、一緒のバンド組んで、帰りに二人でラーメン食べたりとかそんなくらいの距離感にはなれてた。
後輩だけど一応面子もあるから、俺が奢るってしつこく食い下がっても、一度も奢らせてもらえなかった。
いつも「まぁ気にすんなよ少年」って男前な笑顔で、はぐらかされるだけ。
そんな先輩は、まぁ実際モテてて、他大学と合同ライブとかよくやってて交流があるんだけど、それの打ち上げとかでもイケメンバンドマンに口説かれてる姿なんてよく見かけてた。
過去の男関係は知らないけど、その時は彼氏居ないのは調査済みだったので、駆け引きとか何にも無しで、いきなり直球で告った。
今思うと、流石に無謀な告白の仕方だったと反省している。
たしか、入学半年後くらい。当然振られた。
俺が駄目とかじゃなくて、彼氏が欲しいとかそういう気分じゃないって事らしかった。
両手を合わせて「ごめんね?」と何度も謝ってくる先輩に申し訳ないとすら思ったし、逆にその姿を見て余計好きになったりもした。
「彼氏作る気無いんですか?」
「うーん。まぁそうだね。そんな感じじゃないんだよねー。」
「好きな男とかは?」
「え?あはは、まいったね。何か照れくさいね。うん。いないよ。」
「じゃあ俺先輩のことしばらく頑張っていいですか?諦めれそうにないです。やっぱり迷惑ですか?」
「え?あ、そ、そうなの?……なんかキミ直球だね。」
そう言いながら狼狽える先輩の笑顔は、どことなくくすぐったそうというか面はゆい感じが見て取れた。
先輩は照れ笑いを浮かべながら、困ったように視線を宙に向け、頭をポリポリ掻きながら「えー、あー、うーん。」と何か思い悩んでいたようだった。
「別に○○君がそれでいいならそれでもいいけど……でも他に探したほうが……。」
「俺先輩以外とか、今はとても考えられません。」
先輩は俺みたいな愚直な告白に免疫が無かったらしく、照れ笑いを浮かべながら 「やー、あー、う、うん。あ、ありがと。嬉しいよ。てかこういうの照れるね。たはは。」と赤く染まった頬を両手で抑えながらそう言った。
俺は振られたショックよりも、真っ向から気持ちを伝えられた充実感と、満更でもなさそうな先輩の反応を見て、少しでも先輩に近づけたんだと期待で胸を膨らませていた。
それから俺と先輩の、後輩以上恋人未満の付き合いが始まった。
といっても、しばらくは特に以前と何も変わらなかった。
一緒のバンドで、一緒に練習して、一緒にライブして、一緒に打ち上げしてって感じ。当然他のバンドメンバーもいるし、サークルの仲間もいる。
お互いバイトもあれば、講義だってある。二人きりで遊びに行ったりは、物理的に不可能な日々が続いてた。
それでも毎日メールを交換したりしていて、少しづつではあるけど、日に日に先輩との距離は縮まっていくのが確かに実感出来た。
キーボードをやっているのは、昔ピアノを習っていたから。
牛乳を飲んで、口元の産毛が白くなる人が嫌だということ。
父親がゴルゴ13が好きで、家に全巻あって読破していること。
少しづつ先輩は、そんな自分のことを教えてきてくれたりした。
そんなある日。ライブなどのイベントが一斉に片付いて漸く落ち着いてきたころ、先輩から「もし良かった買い物に付き合って欲しいな。」と連絡。
当然即答でOK。まさに舞い上がるとはこの事だと言わんばかりに、携帯片手に飛び上がってはしゃいだのを覚えてる。
どうしても高ぶる気持ちが抑えきれなくて、そのまま外を走りにいったりもした。
当日、ばっちりお洒落を決め込んだ俺とは対照的に、先輩はいつもと似たような服装ではあったけど、少しだけいつもより化粧が濃かった。
デートは勿論楽しくて、ただまぁ正直にいうと緊張しすぎてて普段通り振舞えなかったけど。それでも先輩は、ずっと楽しそうにニコニコしててくれてた。
商店街を散策中、先輩がふと可愛いと目をつけたヘアピンをプレゼントした。
数百円だったから、重荷にはならないだろうと思ったけど、先輩はそれでも受け取ることに難色を示してきた。
なんとか強引に渡すと、先輩はいつも通り、照れくさそうに頭を掻いて笑いながら「ありがとう。」と受け取ってくれた。
その後悪いから、と先輩からも、先輩が選んだギターのピックをプレゼントしてくれた。
デートが終わった後メールで「今日はいつもより綺麗でした。」と送ると、「どーせいつもは綺麗じゃないですよ。」となんだかお決まりのやり取りをしつつ、
「いつもより化粧気合入ってました?」と尋ねると
「まぁ一応デートだしね。」と答えてくれた。
「いつもの先輩も好きだけど、すごい綺麗で惚れ直しました。」
「うあ。そういうの止めて。本当恥ずかしくて死にそう。」
その晩は、ずっとピックを手の中で転がしながら、ニヤニヤと眺めていた。
(次回へ続く)
